大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)3441号 判決

原告(反訴被告)

日本リフォーム協会

右代表者会長

森秋広

右訴訟代理人弁護士

明賀英樹

被告(反訴原告)

田中節子

被告(反訴原告)

梅田昌宏

被告(反訴原告)

今村高子

被告(反訴原告)

酒井紀代子

右四名訴訟代理人弁護士

服部素明

村本武志

主文

一  被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)に対し、それぞれ別紙目録金額欄記載の各金員及びこれらに対する同目録遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告(反訴原告)田中節子、同今村高子、同酒井紀代子は、各自、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録記載の物件を、被告(反訴原告)梅田昌宏は、原告(反訴被告)に対し、同目録二、三記載の物件をそれぞれ引き渡せ。

三  原告(反訴被告)のその余の請求及び被告(反訴原告)らの請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴、反訴を通じて被告(反訴原告)らの負担とする。

五  この判決は、一、二、四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴

1  請求の趣旨

(一) 被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)らは、原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)に対し、それぞれ別表一未払金合計額欄記載の各金員及びこれらに対する同表一遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被告田中、同今村、同酒井は、各自、原告に対し、別紙物件目録記載の物件を、被告梅田は、原告に対し、同目録記載二、三の物件をそれぞれ引き渡せ。

(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(四) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴

1  請求の趣旨

(一) 原告は、各被告に対し、別表二支払金合計額欄記載の各金員及びこれらに対する同表二遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 被告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴

1  請求原因

(一) 原告は、リフォーム業のフランチャイザーとして、経営・技術・営業のノウハウを用いてドクターリフォームチェーンを組織し、これによつてリフォーム業の振興に寄与する権利能力なき社団である。

(二) 被告らは、別表一契約日欄記載の各日にそれぞれ原告とフランチャイズ契約を結び、同表一開店日欄記載の各日からドクターリフォームチェーン店として営業を開始した。

(三) 右各契約(以下「本件各契約」という。)によれば、各被告は、原告に対し、契約時に入会金一〇万円、加盟金二〇〇万円、研修費五〇万円を支払わなければならず、かつ、月額二万円の会費を支払わなければならない。ところが、各被告は、右契約時の所定金額中別表一契約時未払金欄記載の各金額を支払わず、また、同表一未払会費欄記載の各会費(一か月未満は日割り計算、一〇〇円未満切捨)を支払わない。

(四) また、本件各契約によれば、各被告は、原告に対し、顧客からの受注品一点につき一〇〇円の証紙料を支払わなければならないのに、開店後一部しか支払つていない。証紙料は一か月最低二万円になるので、各被告には、少なくとも同表一未払証紙料欄記載の各証紙料(但し、開店後後記(六)記載の本件各契約解除までの間の月数に二万円を乗じ、既払額を控除したもの)を支払う義務がある。

(五) 原告は、被告今村の特注により同被告の店舗に看板を取り付けたが、その代金四万六九〇〇円が未納である。

(六) そこで、原告は、各被告に対し、別表一解除通知到達日欄記載の各日に各被告に到達した書面をもつて、到達後一週間以内に右(三)ないし(五)の各未払金員を支払うべきことを催告するとともに、もし右期間内に支払のない場合には本件各契約を解除する旨の意思表示をした。

(七) また、原告は、各被告に対し、原告所有の別紙物件目録記載の物件(但し、被告梅田については同目録記載二、三の物件)を無償で貸与しており、被告らは現在これらを占有している。これらはいずれも各被告の開店日の約一週間前に引き渡したもので、契約終了時に返還することになつているものである。

(八) よつて、原告は、各被告に対し、本件各契約に基づき、右(三)ないし(五)の合計金額である別表一未払金合計額欄記載の各金員及びこれらに対する催告で定めた期限の翌日である同表一遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、所有権に基づき、別紙物件目録記載の物件(但し、被告梅田については同目録記載二、三の物件)の引渡を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実のうち、「経営・技術・営業のノウハウを用いて」との部分を否認し、その余の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、各被告が原告と原告主張の各日に本件各契約をしたことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実のうち、被告梅田の入会金不払、被告酒井の加盟金残金一〇〇万円の不払の各事実は認め、その余の事実は否認する。

(四) 同(四)の事実は否認する。

(五) 同(五)の事実は否認する。

(六) 同(六)のとおり各書面が到達したことは認める。

(七) 同(七)の事実のうち、原告が、原告所有の別紙物件目録記載の物件(但し、被告梅田については同目録記載二、三の物件)を引き渡し、現在被告らがこれらを占有していることは認め、その余の事実は否認する。

3  抗弁

(一) 被告田中は原告の自認する一〇〇万円以外に一〇〇万円を、同梅田は、原告の自認する一五〇万円以外に五〇万円を、それぞれ支払い、いずれも加盟金二〇〇万円を全額支払済である。

(二) 本件各契約は、いずれも原告の詐欺によるものであるから、被告らは右申込の意思表示を取り消した。

(1) 被告らは全員(但し、被告梅田については同被告の妻)、洋裁の技術、経験を持つており、かつ、かねてから、リフォーム業に関心を持つていたところ、たまたま、新聞、雑誌等で原告の宣伝を見聞した。

(2) そこで、被告らは、それぞれ原告に問い合わせ、原告会長である森秋広や原告の役員である山口博らの説明を受けた。その際、森や山口は、被告らに対し、こもごも、「これからはリフォームの時代である。」「原告に加盟すれば原告が長年にわたり研究開発してきた独自の技術を教える。」「原告は早解き、早縫い、早仕上げの独自の技術をもつているがこれは洋裁学校では教えておらず、知られていない。この技術があれば商売の発展につながる。」「初心者でも四〇日間で習得できる。」「開店その他の経営指導をする。」等と申し向け、その旨被告らを誤信させ、その結果、本件各契約を結ぶに至らしめた。

(3) ところが森や山口の右のような言動は、以下のとおり総て虚偽であつたので、被告らを欺罔したものというべきである。

イ リフォームとは、古い衣類を時代に即応した新しいものに仕立て直すことであるが、原告が被告ら(但し被告梅田については同被告の妻、以下(3)項中において同じ。)に教えたのは単なる寸法直しの技術であり、デザイン、製図、型紙作り等のリフォーム業に必要な技術についての教示はなかつたし、そもそも原告の指導者にはその技術も経験もなかつた。

ロ また、原告の標榜していた衣類の「早解き、早縫い、早仕上げ」についても独自の技術は無かつた。原告が被告らに教えたのは総て洋裁学校等で教えていることであり、被告らの既に知つているところと大差なかつた。そればかりか、被告田中、同今村が毛皮の寸法直しを原告にやつてもらつたところ失敗した。すなわち、山口ら原告の技術者には普通の技術すら無かつたのである。

ハ 原告のカリキュラムをみれば、実際には初心者が四〇日間で習得することは不可能である。

ニ 経営指導についても全くやつていない。

(4) そこで、被告らは、原告に対し、別表二取消通知到達日欄記載の各日に原告に到達した書面をもつて、本件各契約についての申込の意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(三) 別紙物件目録記載の物件(但し、被告梅田については同目録記載二、三の物件)については、被告田中は原告から買い受け、その余の被告らについては原告から贈与を受けたものである。

4  抗弁に対する認否及び反論

(一) 抗弁(一)の事実は否認する。

(二) 同(二)(1)及び(3)の事実は否認する。

同(二)の(2)の事実中、被告らが主張するような言動を森らがなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(二)(4)のとおり各書面が到達したことは認める。

原告は、会長森秋広の経営ノウハウと技術師範山口博のリフォーム技術のノウハウとを基礎として、これまで寸法直しとして男物、女物等各分野に分かれていたものを、新たにリフォーム業という一つの産業として統合、育成し、リフォーム業のフランチャイザーとして、先見性をもつて一貫したシステムを創造してきた。原告が発展するにつれリフォーム業がブームとなつたが、原告のドクターリフォームチェーンほどの規模と一貫したシステムとを持つたところは外になく、現在原告はフランチャイザーとして全国に一〇〇店舗以上のチェーン店を有するに至つている。

原告の特色は、素人の人を四〇日間の技術特訓と経営指導とにより開業ができて、かつ生業になるように指導していくことにある。被告らについても、本件各契約以前にリフォームを業としていた者はおらず、被告田中が洋裁教室を経営していたにすぎない。被告らは原告からノウハウを学びとり、リフォーム店を経営することができるようになつたのである。

なお、被告らはリフォームの定義を限定して原告を攻撃しているが、リフォームとはできあがつた衣類を直すこと全般をいい、寸法直しも型を全く変えてしまうことも総て含んでいるのであるから、被告らの主張は筋違いである。

被告らは原告になんら独自の技術がなかつたというが、原告に独自の技術があつたことは明らかである。被告らは、教えてもらつたことをあたかも以前から知つていたように言つているに過ぎない。 また、被告らは開店、運営においても原告から多大の利益を受けている。原告では開店に必要な資材を揃えて渡しているし、原告の宣伝により統一した信頼のイメージが生まれ、個々の店の繁栄に役立つのである。

(三) 同(三)の事実は否認する。

二  反訴

1  請求原因

(一) 被告らは、本訴請求原因(二)記載のとおり、それぞれ原告との間で本件各契約を結んだ。

(二) 右契約に際し、各被告は、別表二支払入会金欄、支払加盟金欄、支払研修費欄及び支払会費欄記載のとおりの各金員を支払い、かつ、原告から購入した証紙の代金として、同表二支払証紙料欄記載の各証紙料を支払つた。

(三) しかし、右各契約は詐欺によるものであつたから、各被告は、本訴抗弁(二)記載のとおりこれを取り消すとともに、右各取消の意思表示到達の五日後までに右(二)の金員を返還すべきことを催告した。

(四) よつて、各被告は、原告に対し、不当利得として右(二)の金額を合計した別表二支払金合計額欄記載の各金員及びこれらに対する催告で定めた期限の翌日である同表二遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否及び原告の主張

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、被告田中及び被告梅田の支払つた加盟金の金額を否認し(被告田中は一〇〇万円、被告梅田は一五〇万円しか支払つていない。)、その余の事実は認める。

(三) 同(三)の事実のうち、催告の事実は認める。その余の事実についての認否及び原告の主張は、本訴抗弁に対する認否及び反論記載のとおりである。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一本訴について

一まず、原告の金銭請求につき判断する。

1  原告がリフォーム業のフランチャイザーとして「ドクターリフォームチェーン」なるチェーン店を組織している権利能力なき社団であること、被告らが別表一契約日欄記載の各日にそれぞれ原告とフランチャイズ契約(本件各契約)を結んだことは当事者間に争いがなく、右各契約によれば、各被告は、原告に対し、契約時に入会金一〇万円、加盟金二〇〇万円、研修費五〇万円を支払わなければならず、かつ、月額二万円の会費を支払わなければならないとされていることは〈証拠〉により認められる。

2  〈証拠〉を総合すれば、被告今村が原告と本件契約を結び、リフォーム店を始めるにあたつて、原告が一般の加盟店に無償貸与していた看板のほか、同被告の特別注文により同被告の新店舗二階に看板を設置したこと、右看板設置の費用は四万六九〇〇円を下回らないことが認められ、〈証拠〉中右認定に反する部分は容易に信用しがたい。

3  原告は、本件各契約によれば、各被告は、原告に対し、顧客からの受注品一点につき一〇〇円の証紙料を支払わなければならないものとされている旨主張する。この点につき、〈証拠〉によれば、本件各契約の契約書の第五条四項後段には、各被告は受注品に原告の指定する証紙を必ず貼付しなければならない旨規定され、同契約書第七条には、各被告は「第五条四項の証紙を購入の上、提供商品に貼付しなければならない。」と規定されていることが認められるが、右各規定は各被告に対し顧客からの受注品には証紙を貼付し、右証紙は原告から購入すべき旨の契約上の義務を課したにとどまるものと解するのが相当であつて、それ以上に各被告に証紙購入の有無にかかわらず証紙料を支払うべき義務を課したものと解することはできない。従つて、右契約書の規定のみによつて右原告主張の事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。よつて、原告の請求のうち証紙料を求める部分は理由がない。

4  そこで、被告らの抗弁につき判断する。

まず、被告らは、被告田中は原告の自認する一〇〇万円以外に一〇〇万円を、同梅田は原告の自認する一五〇万円以外に五〇万円をそれぞれ支払い、既に加盟金二〇〇万円全額を弁済している旨主張するが、本件全証拠によつても、右の事実を認めることはできない。右のうち被告田中の加盟金支払の点については、被告田中本人尋問の結果中に右主張に沿う供述部分があり、〈証拠〉によれば、原告が同被告に対し昭和五七年三月九日と同月一二日との二回にわたつて各一〇〇万円の領収書を発行し、前者の領収書には契約仮代金として受領する旨、後者の領収書には加盟金として受領する旨各記載されていることが認められる。しかし、被告田中の右供述部分は領収書どおり支払つていることは間違いないというだけのものであつて具体性に欠け、加えて同被告が同被告の本人尋問続行期日に理由不明のまま出頭せず、その結果被告田中の反対尋問を行うことができなかつたことをも勘案すれば、同被告の供述をたやすく信用することはできないし、更に〈証拠〉によれば、被告田中は、昭和五九年三月九日に原告事務所を訪れて本件契約につき説明を受け、その際手付金的な意味で一〇〇万円を支払つて契約仮代金と記載された領収書を受け取つたこと、同被告は同月一二日に再び原告事務所を訪れ、本件契約を結ぶとともに既に支払つていた右一〇〇万円を加盟金に充当したこと、原告の帳簿には右昭和五七年三月九日の一〇〇万円の支払は記載されていず、同月一二日に一〇〇万円が支払われた旨記載されていることの各事実が認められ、右の事実を総合すれば、前記昭和五七年三月一二日付けの原告の領収書は右充当行為に対して発行されたものである疑いもあるので結局、被告田中が原告の自認する一〇〇万円以外に更に一〇〇万円を支払い加盟金二〇〇万円全額を完済したとの事実を認めることは困難である。

よつて、右弁済の抗弁は理由がない。

5  以下被告らの詐欺による取消の主張につき判断する。

(一) 原告の森や山口が、被告らに対して、原告に加盟するよう勧誘するに当つて、被告ら主張のとおりの言動をなしたことは当事者間に争いがない。そこで、これらの言動が違法な欺罔行為といえるか否かについて以下検討する。

(二) まず、被告らは、リフォームとは古い衣類を時代に即応した新しいものに仕立て直すことをいうところ、原告はリフォームを教えると称して被告らを勧誘しながらリフォームの技術を全く教えなかつた旨主張するが、〈証拠〉によれば、リフォームとは既存の衣類を加工すること全般をいう概念であり、衣類の一部分の大きさや形を変えるいわゆる寸法直しを含むものであると認められるうえ、〈証拠〉によれば、被告らは原告から衣類を根本的に仕立て直すためのデザイン、製図、型紙作り等の技術を教えられることを期待し、それを動機に本件各契約を結んだわけではなく、原告の実施する講習の内容が寸法直しの技術を中心としたものであることを事前に承知していたことが認められることからすると、被告らの右主張は理由がない。

(三) 次に、被告らは、原告は衣類の解きかた縫いかた仕上げかたについての独自の技術がないのにあたかもそれがあるかのように装つて被告らにその旨誤信させたと主張し、〈証拠〉によれば、被告らは、いずれも、本件各契約に先立つて、森や山口から、原告には早解き早縫い早仕上げの独特の技術がある旨の説明を受け、右事実を主たる動機として本件各契約を結んだものであると認められる。

〈証拠〉を総合すれば次の事実が認められる。

イ リフォームとは既存の衣類を加工することであつて、殊に寸法直しはその重要な分野であるが、従来これは仕立て職人(テーラー)が副業的に行つたり内職として行われたりしており、専門的リフォーム業者は存在しなかつたため、リフォーム業はテーラーの専門分野に従つて細分化され、また技術的進歩の困難な状況にあつた。

ロ そこで山口は昭和三三年三月にリフォームを専門に扱う店を開業し、以後リフォームの技術を研究して衣類の解きかた、縫いかた、仕上げかたについて多くの技術を開発した。

ハ 山口の開発した技術は多々あるが、例えば解きかたとしては糸を切らずに引き裂く方法、電波で糸を切る方法などがあり、縫いかたとしては、寸法を縮める場合にはあらかじめ糸を解くことをせず、そのまま縮める部分を縫い込んでから不要な部分を切り捨てる方法などがあり、その他ズボンの寸法を広げる方法、モーニングの腰より下の部分(コロモ)のはねを直す方法などに山口の開発したものがある。

ニ 山口は昭和五六年に森秋広とともに原告を設立し、山口の店舗を中心にフランチャイズ契約によるリフォーム業のチェーン店「ドクターリフォームチェーン」を組織するに至り、以後森が原告の会長としてチェーン店の経営指導を担当し、山口がチェーン加盟者の技術指導を担当することになり、組織的な研修を実施するなどして加盟者に右技術を教授した。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、右事実によれば、原告には独自の技術があつたものというべきである。もつとも、〈証拠〉によれば、山口の開発した右技術の多くは、本件各契約以前から被告ら(但し、被告梅田については同被告の妻、以下この項において同じ。)が既に知つているものであつたことが認められるけれども、本来リフォーム技術は誰かが考案すればそれが容易に一般に伝播普及する性質のものであり、また、偶然複数の者が同じ技術を考案することもままあるものと思われるから、その技術を被告らがたまたま知つていたからといつてその一事をもつて直ちにこれが原告に独自の技術ではないということはできない。もつとも、いかに山口の開発した技術といえどもそれが普及一般化し、およそ洋裁を学んだことのある者にとつては全くの常識となつているような場合には、これをもつて原告に独自の技術ということはできず、原告が被告らに教えた技術の大部分がそのようなものに過ぎないというのであれば森及び山口の前記発言が詐欺となる場合もあろうかと思われるが、本件全証拠によつてもかかる事実を認めることはできない。

(四) 被告らは、原告が「初心者でも四〇日間で習得できる。」と発言したことをもとらえてこれを詐欺であると主張するが、本件全証拠によつても被告らのうちでこの点を動機として本件契約を締結するに至つたと認められる者はいないので、被告らの右主張は理由がない。

(五) また、被告らは原告がなんら経営指導をしていないと主張するが、〈証拠〉によれば、森及び山口らは前記のような衣類加工についての技術を加盟者に教授するとともに、加盟店の開業場所の選定、店内のレイアウト、店舗の内外装等について助言を与え、開店に必要な各種事務用品や名刺等を売却したりあるいは無償で提供し、その他必要に応じて被告らの問い合わせに回答するなどの方法により、経営指導も行つたことが認められる。

(六) 以上のとおり、被告らを勧誘するに当つて用いられた森らの言動は、原告に衣類加工について前記のような独自の技術と認められるものがあり、又、被告ら加盟店の経営指導も前記の程度において行なつていたことが認められることからすると、被告らが当初期待していたような高度の加工等の技術ないし経営の指導が行なわれなかつたからといつて、これをもつて直ちに社会通念上違法な欺罔行為とまでいうことはできないものというべきである。

よつて、被告らの詐欺による取消の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

6  以上の事実により被告らに支払義務のある各金員につき、原告が各被告に対し、別表一解除通知到達日欄記載の各日に各被告に到達した書面をもつて、到達後一週間内にこれらを支払うべきことを催告したことは、当事者間に争いがない。

二次に原告の別紙物件目録記載の物件(但し被告梅田については同目録記載二、三の物件、以下この項において同じ。)の引渡請求について判断する。

原告が原告所有の右物件を各被告に引き渡し、現在被告らがこれを占有していることは当事者間に争いがない。この点につき被告らは、右各物件は被告らにおいて原告から買い受け、あるいは贈与を受けたものであると主張するが、右主張に沿う証拠はなく、かえつて、〈証拠〉によれば、これらは本件各契約に基づき本件各契約の終了までの間被告らに貸与されたものであると認められ、原告が各被告に対し前記一6のとおり未払金員を支払うべきことを催告するとともに、もし右期間内に支払のない場合には本件各契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

よつて、原告の右請求には理由がある。

第二反訴について

被告らの反訴請求原因中詐欺の事実が認められないことは、前記本訴について一5記載のとおりである。従つて、被告らの反訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

第三以上の事実によれば、原告の本訴請求は、各被告に対し、別紙目録金額欄記載の各金員及びこれらに対する催告で定めた期限の翌日である同目録遅延損害金起算日欄記載の各日からそれぞれ支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払及び別紙物件目録記載の物件(但し被告梅田については同目録記載二、三の物件)の引渡を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、被告らの反訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官河田 貢 裁判官浅野秀樹 裁判官長井秀典)

別紙目  録

被告(反訴原告)田中節子

金額 一三〇万八〇〇〇円

遅延損害金起算日 昭和五八年九月一四日

被告(反訴原告)梅田昌宏

七八万六六〇〇円

昭和五八年九月一四日

被告(反訴原告)今村高子

三四万四三〇〇円

昭和五九年四月一五日

被告(反訴原告)酒井紀代子

一二三万五四〇〇円

昭和五九年四月一八日

物件目録

一 壁面用針山ひつじ 一基

二 店頭用針山ひつじスタンド 一基

三 プラスチック製プレート

A型・B型 各一基

別表一、二〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例